韓国の出版事情は、日本とちがう点が多い。最もちがうのは韓国には書籍の「再販売価格維持制度」がないということ。新刊は18か月保護されるが、その後は値引き自由。表向きは定価を守ろうというルールがあるが、積立金という名目で値引きしたり、実用書などの分野に入れて保護を逃れたりと、「仁義なき販売競争」が繰り広げられている。
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だから、売れる本ほど値引き競争が起こる。話題の本が安いのでそこに取引が集中されるため、売れるジャンルや作家に偏った、多様性に乏しいものになりがちだ。資本力のある大手が絶対的に有利なのも問題だ。
そこで、それらの問題を何とか是正しようと、今年からはじまったのが「優秀出版企画案支援制度」。韓国出版文化産業振興院が、市場原理によって埋もれそうな「出なくちゃいけない優れた本」に支援金を出すという制度だ。
韓国出版文化産業振興院は国が出資する公共機関。つまり、多様ないい本が出るように国が支援しますよ、という制度なのだ。
この制度を利用すると、例え小さな出版社だって志のある良書を出すことができる。もちろん、このような制度は日本にはない。
ノンフィクションや科学読み物など、ちょっと真面目で地味なものを書いているぼくとしては、とてもありがたい制度なのである。
ところが恥ずかしいことにぼくは、今年からこのような制度が実施されること自体、まったく知らなかった。
先日、韓国にいくと、友人から「やりましたね、おめでとう」と声を掛けられ、『イヌ』を出した出版社からは「今、進めてる企画も、来年、必ず申請しますからね」といわれた。
何が何だかわからないまま、イヌの本の出版を記念した講演会場にいくと、来年発売予定の『イルカ』の版元の編集長がやってきて、「優秀出版企画案支援の公募に原稿を送ったところ、見事に優秀賞に選ばれました!」と興奮気味に話した。
編集長曰く。
公募には大人、青少年、児童書を含む1047点の応募があり、大賞がひとつ。最優秀賞が5作。優秀賞は27作選ばれるのだが、『イルカ』は優秀賞ながらも、全入賞33作中の10位に入ったとのことだった。
まだ、編集がはじまったばかりの段階だが、国から「いい企画」というお墨付きをいただいたかたちだ。これで出版社も予算を気にせず、いい本に仕上げてくれるだろう。ひと安心^^ひと安心^^