2001年のことだ。クロツラヘラサギ研究者からこの鳥の絵本を書いてくれないかと頼まれた。
しかし当時のぼくは田舎の小さな出版社から本をだした程度のひよっこ作家、この鳥の背景ある大きなものを描ける実力もなく、「いつか必ず出しますから、待っていてください」というしかなかった。研究者は、「じゃあ、宿題だね」といった。 当時(2002年)、969羽しかいなかったクロツラヘラサギは、絶滅に一番近い鳥として書くのに十分な素材であり、その生態もたいへん面白く、それだけでも絵本にはなった。 しかしぼくには、簡単に書ける素材ではなかった。それは北朝鮮へと渡った多くの親戚がいて、一歩間違うと自分も帰国船に乗って北朝鮮で暮らしていたかもしれないという生い立ちがあるからだ。 ほとんどのクロツラヘラサギは、南北が対峙する海の無人島で繁殖する。ぼくにとってクロツラヘラサギは、南北の和解と統一を願う鳥である。統一や平和をテーマにする以上、何十年にもわたって読み継がれる秀作を書かなくてはいけない、という自らに課せられた宿題でもあった。 依頼から4年がたった2005年1月のことだった。韓国で初めてとなる本、『コウノトリ』の出版が決まり、韓国のコウノトリ研究の第一人者、パク・シリョン教授に会いに韓国教員大学にいったときのことだ。 パク教授への取材が終わると、一緒にいった編集者が会わせたい人がいると隣の部屋へ連れていった。するとそこには、クロツラヘラサギの大きなパネルが飾ってあり、韓国ではじめてでたクロツラヘラサギの本が積んであったのだ。 その人こそは、本の著者であり、韓国のクロツラヘラサギ研究の第一人者であるキム・スイル教授だったのである! (写真の左側) もちろん、キム教授とぼくは、クロツラヘラサギの話で盛り上がった。 教授は、どんどん他の人もクロツラヘラサギのことを書いてほしいといい、子どもの本こそ必要だと協力を惜しまないと約束してくれた。 よしっ、コウノトリの次はクロツラヘラサギだ! うれしい想いを持って日本に戻ったが、悲しいことに半年ほどたった8月、キム教授は病に倒れ、帰らぬ人となってしまったのである。 またひとつ、キム教授からも大きな宿題をいただいたような気持ちになった。 クロツラヘラサギという素材を、どのように展開すればいいのだろう……。宿題の絵本の事を忘れた日はなかった。 そんな2010年のある日のことだった。過去にスクラップしていた新聞記事が偶然に目にとまった。 ヨーロッパのコウノトリ、シュバシコウが、原発事故のあったチェルノブイリから争いが絶えない中東へと渡り、そして環境破壊や貧困で苦しむアフリカへと渡っているという記事だ。 そうだった! 思わず叫んだ。何かを訴えるように飛ぶ、鳥の移動を絵本にしたいとずっと思っていたじゃないか! クロツラヘラサギを南北だけで見るのではなく、彼らが移動する、南北コリア、日本、台湾、中国、ベトナムなど、アジア全体を見よう。 そうだ! いっそのこと、クロツラヘラサギだけでなく、記事にあるコウノトリの渡りも描こう。いやいや、ホッキョクグマもことも、コククジラのことも……。 絵本は、大移動する動物たちの姿を次々と描き、その最後にクロツラヘラサギを登場させるとこで、彼らに強いインパクトを残すという展開にした。 タイトルはすばり、『動物の大移動』。 クロツラヘラサギの研究者二人と、自分自身から宿題をもらってから(構想から)10年、2011年に原稿を書きあげ、出版社に持ち込んだところ、出版社もこの大きなテーマを描くのに十分な画家に絵を依頼してくれた。 そして、絵を待つこと3年。 いよいよ絵が完成に近づいているという。春にはだしたいなぁ。 2012年の世界一斉個体数調査で、クロツラヘラサギの個体数は2,697羽ということがわかりました。
by kimfang
| 2014-02-08 15:08
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