動物児童文学作家のキム・ファンです!!
14/11/15 サクラ、健康取り戻す
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 9月のことだった。『サクラ―日本から韓国へと渡ったゾウたちの物語』(学研教育出版 / 第1回 子どものための感動ノンフィクション大賞 最優秀作品)の記事を書いてくださった朝日新聞の記者さんから、突然、電話があった。サクラのことでお願いしたいことがあるということだった。
 サクラとは、2003年に宝塚ファミリーランドの閉園に伴い韓国のソウル大公園に引っ越したメスのアジアゾウだ。

 記者さんがいうには、読者の方から「サクラが病気だと聞いた。生まれ故郷のタイにいくかもしれないらしい。取材をしてほしい」との要望があったというのだ。サクラの追加取材をお願いできないかという話だった。
 ちょうど9月の末にソウル大公園のゴリラの取材を予定していた。ふたつ返事で快く引き受けた。

 しかし、本心は複雑だった。もしも、もっとひどくなっていたら……。知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが交差した。

 昨年3月に韓国の雑誌社から「体調を崩している」と国際電話で知らされて、翌月にあわてて会いにいったが、思っていた以上に重傷だった。
 ソウル大公園側の広報から事情を聞くと、大好きだったアフリカゾウのオスが死に、引っ越してきた当初から担当してくれていたもっとも信頼していた飼育員がフィリピンに移住するなど、サクラを取り巻く環境に激変が起こっていたのだ。
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 ゴリラの取材あと、サクラの担当飼育員を訪ねた。まだ、サクラを見ていない。心がドキドキした。
 あいさつを済ますと、担当飼育員は笑いながらいった。
「まだ、ぼくは、サクラに受け入れてもらえていません」
そういいながらも、サクラのために最善を尽くしていることをわかり易く説明してくれた。

「先生がこられたころが、ちょうど一番悪い頃だったようです。ストレスで土を食べてしまい、腹痛で苦しんでいました。だから、放飼場にだせなかったのです」
 そう。昨年、会いにいったとき、ほかのゾウは外にいたのに、サクラだけ室内にいたのだ。

「じゃあ、サクラに会いにいきましょうか」
 飼育員が案内してくれたのは、過去に通ったことのある、放飼場へと続く裏道だった。
 ―ああ、ちゃんと外にいるんだ。
それだけでもうれしかった。

 飼育員が、「サクラ! サクラ!」と、大きな声で呼ぶと、2頭のゾウが近づいてきた。
 1頭のこめかみあたりに液体が染み出ているが見えたので、「モストがでているから、この子はオスだね」
というと、「メスにもでるんですよ」と教えられた。
 つまり、サクラはメス2頭で生活していたのだった。
「へぇ~。メスと一緒に暮らしているんだ!」

 ソウル大公園の放飼場は、とても広い。そこで、いくつかに区切られてゾウが暮らしている。ゾウたちは小さな柵越えに、鼻でお互いに触れられるようになっている。
 サクラは、ずうっと1頭だけの柵に入っていた。そして、アフリカゾウのオスと「叶わぬ恋」に落ちて、国民的な「悲恋のヒロイン」になったのだった。
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 飼育員はサクラの訓練を見せながら続けた。
「これまでは繁殖をさせようと、ひとりで飼育したり、オスと一緒にしたりしていました。でも、ストレスを感じるようです。一番、仲のいいメスと一緒にしています」
 つまり、繁殖よりも、サクラの長生きを優先させる方向に方針転換したということだった。それが功を奏して、今では健康を取り戻したというのだ。ゾウは母系社会。メス同士でいるのが一番落ち着くのだ。

 とはいえ、サクラは足に肉芽ができるなどの持病があるという。
「足を見せるよう、厳しい訓練をするので、わたしはサクラに嫌われています」
 飼育員は、また、優しく笑った。

 来年、サクラは50歳になる。

 ※このブログの記事は、新聞に掲載されたものではありません。
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by kimfang | 2014-11-16 10:56 | トピックス