動物児童文学作家のキム・ファンです!!
スナメリの生物学
スナメリの生物学(せいぶつがく)  帝京(ていきょう)科学(かがく)大学(だいがく)アニマルサイエンス学科(がっか) 粕谷(かすや)俊雄(としお)

 スナメリはクジラでしょうか? それともイルカでしょうか? 動物学的(どうぶつがくてき)にはクジラもイルカもクジラ(もく)というグループにふくまれます。クジラ(もく)はさらにハクジラ亜目(あもく)とヒゲクジラ亜目(あもく)()けられ、()わせて70-80(しゅ)()られています。そのなかで(からだ)(おお)きく雄大(ゆうだい)(しゅ)をクジラと()び、小さくてすばしこい(しゅ)をイルカと()習慣(しゅうかん)世界(せかい)国々(くにぐに)にあります。クジラとイルカの()(かた)は、動物学的(どうぶつがくてき)分類(ぶんるい)とは関係(かんけい)がなく、その境目(さかいめ)(おお)きさもあいまいで、コマッコウのようにどちらに()けるべきかよくわからない(しゅ)もあります。
 物語(ものがたり)登場(とうじょう)するスナメリは、ハクジラ亜目(あもく)ネズミイルカ()の1(しゅ)です。日本(にほん)()られるクジラ(もく)(なか)では1(ばん)(ちい)さく、世界中(せかいじゅう)でも(ちい)さい(ほう)から1-2(ばん)(おお)きさです。おとなのスナメリは体長(たいちょう)1.5-1.8m、体重(たいじゅう)60kg、(ひと)ほどの(おお)きさです。()ビレがなく、全身(ぜんしん)灰色(はいいろ)(あたま)がまるく、かわいい(かお)をしています。(あたま)のてっぺんに(はな)(あな)がひとつあり、ヒフの(した)左右(さゆう)()かれてのどに()かっています。()(うし)ろにエンピツの(さき)()いたような(ちい)さなくぼみがありますが、これが(みみ)(あな)です。 (くち)には(ちい)さな()上下(じょうげ)左右(さゆう)15-20(ぽん)はえています。
その分布(ぶんぷ)は、西(にし)はペルシャ(わん)からインド・東南(とうなん)アジア・黄海(こうかい)をへて、日本(にほん)仙台湾(せんだいわん)山陰(さんいん)沿岸(えんがん)にまで(ひろ)がっています。本来(ほんらい)(あたた)かくて50mより(あさ)(うみ)(この)むのですが、(きた)仲間(なかま)(さむ)さにも適応(てきおう)して、(ふゆ)水温(すいおん)が5℃以下(いか)にさがる黄海(こうかい)日本(にほん)近海(きんかい)にも生活(せいかつ)するようになりました。また、中国(ちゅうごく)揚子江(ようすこう)では河口(かこう)から2000km上流(じょうりゅう)にまで分布(ぶんぷ)(ひろ)げ、一生(いっしょう)をそこで()ごす仲間(なかま)もいます。5-6 (さい)大人(おとな)になると、2(ねん)に1()、1(とう)()どもを()みます。寿命(じゅみょう)は15-20(ねん)です。
 ところでスナメリは回遊(かいゆう)をしないので(とお)くの仲間(なかま)とあまり()がまざらないことから、産地(さんち)ごとの(ちが)いが()られています。日本(にほん)では九州(きゅうしゅう)西海岸(にしかいがん)大村湾(おおむらわん)有明海(ありあけかい)の2つのグループは(あき)()どもを()みますが、瀬戸内海(せとないかい)伊勢湾(いせわん)三河湾(みかわわん)東京湾(とうきょうわん)から仙台湾(せんだいわん)までの3つのグループは初夏(しょか)()どもを()みます。(あたま)(ほね)遺伝子(いでんし)にも産地(さんち)ごとに微妙(びみょう)特徴(とくちょう)があります。これらのグループを個体群(こたいぐん)()びますが、研究(けんきゅう)がすすめば日本(にほん)のスナメリに6番目(ばんめ)個体群(こたいぐん)()つかるかもしれません。
 それぞれの個体群(こたいぐん)安全(あんぜん)()きられよう(ねが)っていますが、現在(げんざい)わかっている生息数(せいそくすう)はさまざまで、大村湾(おおむらわん)個体群(こたいぐん)は500(とう)以下(いか)、その()個体群(こたいぐん)ではどれも数千頭(すうせんとう)といわれています。(わたし)は1976年、仲間(なかま)二人(ふたり)でフェリーボートを()りついで、瀬戸内海(せとないかい)のスナメリの分布(ぶんぷ)(かず)三年(さんねん)がかりで調(しら)べました。そのころの瀬戸内海(せとないかい)は、工場(こうじょう)はい(すい)下水(げすい)汚染(おせん)(すす)んでいて、漁師(りょうし)さんの(あみ)奇形(きけい)(さかな)がかかり新聞(しんぶん)話題(わだい)になったり、赤潮(あかしお)発生(はっせい)(さかな)()(こと)もしばしばありました。スナメリはその(うみ)小魚(こざかな)やエビ、イカなどを()べて生活(せいかつ)していましたので、きっと(わる)影響(えいきょう)がでるに(ちが)いない、(いま)のうちにかれらの生態(せいたい)()ておく必要(ひつよう)があると(かんが)えたのです。それでも当時(とうじ)は、4-5(がつ)になると瀬戸内海(せとないかい)のどこにも()まれたばかりで(くろ)っぽい(いろ)(あか)ちゃんスナメリがあらわれ、灰色(はいいろ)のお(かあ)さんと(およ)いでいるのが(あき)まで()られました。()どもは(ふゆ)までにはひとり()ちをするらしく、エサの()(まえ)をもらおうとして、カモメなどの海鳥(うみどり)がスナメリの(うえ)()っていました。
 ところが前回(ぜんかい)調査(ちょうさ)から23(ねん)がすぎた今回(こんかい)心配(しんぱい)していた(こと)現実(げんじつ)となってしまいました。1999(ねん)から2(ねん)をかけて(むかし)(おな)航路(こうろ)をとおって瀬戸内海(せとないかい)のスナメリを調(しら)べてみたところ、スナメリは、どこでも前回(ぜんかい)よりも(すく)なくなっていたのです。発見数(はっけんすう)周防灘(すおうなだ)では7-8(わり)でしたが、(ほか)(うみ)では1(わり)以下(いか)というおそろしい結果(けっか)でした。(むかし)から広島(ひろしま)県竹原(けんたけはら)(おき)にはスナメリが(おお)く、タイ()りの漁師(りょうし)さんに協力(きょうりょく)するといわれ、1930 (ねん)にその海面(かいめん)天然(てんねん)記念物(きねんぶつ)指定(してい)されました。ここは前回(ぜんかい)調査(ちょうさ)ではスナメリがいつもたくさん()られた場所(ばしょ)でしたが、今回(こんかい)調査(ちょうさ)では何度(なんど)おとずれても1(とう)()つからなかったのです。
 瀬戸内海(せとないかい)のスナメリはなぜへったのでしょうか? ()めたてや、砂利(じゃり)()ることで、スナメリのすみかがこわされてきたからです。漁師(りょうし)さんの(あみ)にかかって()事故(じこ)(すく)なくありません。それだけではなく、汚染(おせん)された(さかな)()べるので、体内(たいない)にDDT、PCB、有機(ゆうき)スズなどの(ひと)が作った毒物(どくぶつ)がたくさんたまってしまい、(よわ)(あか)ちゃんが()まれたり、寿命(じゅみょう)(みじか)くなってしまったことも原因(げんいん)でしょう。(わたし)はこれらのことが(かさ)なり()ってスナメリがへったと(かんが)えています。 
 残念(ざんねん)なことに、このようなことは瀬戸内海(せとないかい)のスナメリだけでなく、日本(にほん)国内(こくない)(べつ)個体群(こたいぐん)もおなじ危険(きけん)にさらされているのです。また、スナメリだけでなく、汚染(おせん)された(さかな)()べる人間(にんげん)にも(わる)影響(えいきょう)がでるかもしれません。
 スナメリを(まも)ることは人間(にんげん)(まも)ることにもつながっているのです。
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by kimfang | 2002-05-17 12:50 | 出版物