人にはそれぞれ、自らの人生を変えた本との出会いがある。 それは小説だったり、一編の詩だったり、ときには絵本だったりもする。 しかしぼくは図鑑と出会って、人生が変わってしまった。(何とも、ぼくらしい) その本は韓国で1994年に発売された『우리 새 백 가지』。「私たちがほんとうに知らなければいけない我が国の鳥 100」という鳥類図鑑だ。 図鑑といっても写真よりも文章が多く、相当に重くて分厚い。もちろん持ち歩くのに適していないが、専門知識を分かり易く広めようとする熱い想いがみなぎる本だった。 ところでこの本は、ぼくが選んだのでもなく、買ってきたのでもない。なのに、偶然に我が家へやってきて、さらには偶然にも、著者と知り合いになるという幸運をもたらしてくれた、まことに不思議な縁を持つ本となった。 まずは、どのようにして、我が家にやってきたのか?から、話そう。 多分、みなさんはぼくが在日韓国人だから、韓国に行けて当たり前だと思っていることでしょう。 しかしぼくは、「朝鮮籍」だったので簡単には韓国へは行けなかった。 いっておくが朝鮮籍は「北朝鮮籍」ではない。(日本は国と認めていない)解放当時のまま、朝鮮半島出身者を示す「記号」のようなものなのだ。 ぼくが生まれた1960年、父方の家族は父だけを残してみな、帰国船に乗って北へ渡った。本当の故郷は南だったが、韓国へはまだ帰れなかった(日韓国交正常化は1965年)。 激しい南北対立のなか、北の兄弟の身を案じた両親は、ぼくが韓国へ訪問することはもちろん、韓国籍を取得することすら固く禁じたのである。 韓国へいきたくてもいけない、そんな1999年、友人が訪韓するときき、「鳥の本」を買ってきてほしいと頼み込んだ。 今のようにインターネットで韓国の情報がすぐに手に入る時代ではない。どんな本が、いったいどれほどのレベルであるのかもまったくわからない。ただ、「専門的過ぎず簡単過ぎない鳥の本」をお願いした。 今から思えば、韓国語ができない、しかも図書館学が専門という友人にとっては、とっても難しい注文だったと思う。通訳を介して書店の店員と散々悩んだ末に、友人が選び抜いたのが、あの図鑑だった。 初めての韓国の本を手にして知ったことは、あまりにも多かった。 一番、驚いたのは100種の鳥を紹介しているこの本の巻末に、「南北 鳥の名前の比較」がついていたこと。一般的な鳥100種を選んだのに、名前がちがうのがなんと53。半分以上もあった。 また、心にズンときたのが、参考文献、17冊のうち、日本の本が半分以上の9冊もあったこと。(ちなみに英語の本は4冊) 北に親戚がいて日本にすんでいる「在日韓国人」でしかできないことが、きっとある!と、激しく心を揺り動かされた。 その後の行動は、今のぼくの活動を見ればおわかり頂けることだろう。 ところで、この本の著者-イ・ウシン(李宇新)・ソウル大教授は、帯広大学と北海道大学に留学経験があって、現在、韓日渡り鳥保護協力会議の韓国代表だ。著者との出会いも、また、偶然の産物だった。 昨夏、大手全国紙・Y新聞が、韓国のトキについて取材したおり、イ教授とのインタビューが急に入った。その通訳を務めたのが、たまたま、ぼくだったのである。 韓国に行けない日々に、何度も何度も穴があくほど読んだ本である。著者を忘れるはずがない。 ソウル大学の研究室で行われたインタビューが終わると(私情は後回し)、ぼくは教授が執筆された御書こそが、自分の人生を変えるきっかけになったとカミングアウトした。 それまで淡々とインタビューに応じていらした教授の表情が一変した。「それはそれは、著者冥利につきることだ」と喜んでくださった。 昨秋、韓国で行われたラムサール会議のとき、また偶然、お会いした。こうして会うならば、あの本を持ってくればよかったと、どれほど後悔したことか! 1月13日、イ教授を代表とする一団が日本にやってきた。忠清道に新しく建設する生態園の参考にするために、日本の施設を視察した。ぼくは雪の降るなか、京都府立植物園を案内した。(写真。おかげで風邪をひいた) もちろん、あの本を持って。 本を手にしてからちょうど10年。ついにサインが入った。
by kimfang
| 2009-01-18 12:28
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