コウノトリといえば豊岡市―。
今や世界が知っている、一度絶滅した鳥の美しい復活劇だ。
いち早く少なくなったコウノトリを捕獲して人工飼育に乗りだしたのは兵庫県だったが、絶滅の寸前まで、
福井県にも野生のコウノトリがいた。そのことを知る人は、どんどん少なくなっている。
今やぼくは、ノンフィクション大賞も受賞して、すっかりノンフィクション作家となってしまったが、初めて手掛けたノンフィクションは、
絵本『くちばしのおれたコウノトリ』(03.素人社)。 この物語の主人公、
コウちゃんを忘れることはできない。
コウちゃんは1970年12月に福井県、当時の武生(たけふ)市(今は越前市)に降り立った。
人々は、まだ、福井にコウノトリが残っていたと大喜び(のちに大陸からの迷鳥と判明)した。 けれども捕獲すべきか、そのままにするのか意見がまとまらず、白山小学校の生徒たちに観察を依頼し、静かに見守った。
ところが、子どもたちがコウちゃんと名づけた飛来したコウノトリは、くちばしが8センチもおれていて、日に日にやつれていった。
このままでは危ない。
そこでやむを得ず捕獲し、71年2月28日に、人工飼育の設備が整っていた兵庫県豊岡市に引き渡したのだ。『帰らぬつばさ』林武雄より→
それからコウちゃん(豊岡では武生と呼ばれた)は、上くちばしを3センチ切る(ヒビがあったので)手術をしたが、くちばしを激しく打ち鳴らすクラッタリング(コウノトリはこれで話す。鳴かない)が上手くできずに、いじめにもあった。
それでも我慢強く生きた。ついに優しい夫にもめぐり合い、たった一羽だが娘も産んで、34年間も生きた。
2005年9月の歴史的な放鳥をまてずにその3か月前に天国へと飛び立ったのである。
当時、コウちゃんを保護した生徒たちは大人になり、当時の保護活動を後輩へ伝えるためにコウちゃんの像も作った。ぼくも
白山小で記念講演もさせていただいた。
さて、そんな当時の武生市(今は越前市)の人々が望むのは、
コウちゃんの「再来」だった。
豊岡で放たれたコウノトリが帰ってきて、住みついてくれることを待ち望んでいた。
だから、いつコウノトリがやってきてもいいように、コウノトリが棲める環境づくりに一生懸命に取り組んでこられた。
そして、ついに! 4月1日、コウちゃん以来、
40年ぶりに越前市にコウノトリがやってきた!
豊岡で放鳥されたコウノトリのペアだ。
このまま、コウちゃんの故郷に棲みついてほしい!なぁ。