16日に上関を訪れた。絵本、『のんたとスナメリの海』の取材のために訪れて以来、11年ぶりだ。
上関原発は本格的な埋め立て工事がはじまったが、福島の原発事故を受け工事が中断。しかし計画が白紙撤回されたわけではない。
今回は、イルカの仲間であるスナメリを題材としたノンフィクションを書くべく
、「長島の自然を守る会」が企画した「スナメリウォッチング&祝島ビワがり」に参加した。
取材に向かう5日前に
広島湾で100頭ものスナメリが確認されたと、地元の新聞が大きく報じた。スナメリに会える確率は高いぞ! 期待で胸を膨らませた。
そところが雨がひどい。ぼくは小さい方の船に乗り、カメラを構えて甲板に座った。
ガイドがいった。「ここにいたスナメリたちが、イワシの群れを追って広島湾に移動しました」。
しかしスナメリを見つけることはできず、船は原発予定地に着いた。
11年前は工事もはじまっていなくて、生きもの調査もすることもできた。しかし今は、船の上から、埋め立てられるかもしれない田ノ浦の浜を眺めるしか術がない。
と、その時、船長が「いた!」と叫んだ。
ガイドも「キムさん、カメラ、カメラ!」と続けた。
ついにスナメリに会える!
大きく揺れる船を這うようにして声のする方へ。
ところがいたのはスナメリでなく、カンムリウミスズメだった。大きく揺れる船に這いつくばって無心にシャッターを切った。
世界でたった5,000羽しかいない希少な海鳥だ。
2008年にこの海域で初めて発見されて以来、何度も撮られているが、原発予定地での撮影は珍しく、貴重な写真となった。
祝島に着くと、大きい方の船に乗っていた人たちから声をかけられた。
「カンムリウミスズメを見たんですって! 会ってもらいたい人のところに、現れるのねえ」
「スナメリよりも会えない生きものだよ。よかったね!」
確かにそうだが、やはりスナメリに会えていないことが心に引っ掛かった。
予定された行事をすべて終えて、船は祝島を離れた。
スナメリに会うにはこれが最後のチャンス。海の荒れは益々ひどく、もはやカメラを構えられる状態ではない。それでも海を見つめ続けた。
するとどうだ! 最後の最後に、息継ぎのために海面に現れたスナメリ、2頭を見つけた!
今回の旅で、
原発予定地は、瀬戸内海の原風景が残った「奇跡の海」であると、改めて感じた。
決して壊してはいけない。